AI・ビッグデータ時代におけるサービスインテグレータの重要性――サービスは「作る」から「つなぐ」時代へ

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はじめに

近年AIやビッグデータに注目が集まり、経営者やCIOがそれらを提供するサービスプロバイダーの選定やシステム戦略の検討を行い、そこから得られる成果に期待を寄せていることを肌で感じています。私自身、実際のAIシステム開発の現場でこれらの高いビジネス要求に応えていくことに、既存のサービスマネジメントの手法では難しく感じることが何度かありました。

ITIL (Information Technology Infrastructure Library)の復習をしつつ、新たなサービスマネジメントの手法を探している中で面白いと思えたのが、SIAM(Service Integration and Management)というサービスマネジメントの手法です。今回はこれをご紹介したいと思います。

SIAMとは

元々はイギリス政府のICT戦略としてまとめられたものですが、2017年に体系化され英語版がダウンロードできるようになり、2018年に日本語版の翻訳が完成しました。比較的新しいサービスマネジメントのフレームワークといえるでしょう。

SIAMとITILの違い

「ITILを知っているからサービスマネジメントはOK」。そう考えてらっしゃる方も多いかとは思いますが、ITILとの大きな違いは、SIAMは複数のサービスプロバイダーが関係するITサービスを、エンドツーエンドで顧客に提供することを目的としているというところにあります。ITILは高度に体系化されており有効な考え方ですが、実は複数のサービスプロバイダーが関係する場合、それをどのように統合しエンドツーエンドでサービスを保証していくか、という部分には触れられていないのです。

今の時代、ITサービスの全てを単一のサービスプロバイダーで完結するということは、ほとんどありません。AI、ビッグデータ分析など、サービスは次々と結びつきを強めています。サービスを「作る」時代からサービスを「つなぐ」時代にシフトしていると考えます。

SIAMの組織構造

例えば、下記のような事例は決して少なくありません。

○○システムはA会社によって提供されているが、それはクラウド上のB会社のサービスで構成され、さらには内部のC部門の提供システムとも連携し、D会社へ一部の運行管理をアウトソーシングしている。最近、経営部門からAIによるデータ分析の要求が高まったことを受け、内部のE部門のデータベースも活用するため、マルチクラウドを採用し・・・以下略

<現状>

IT部門担当者にとって頭を抱えたくなる話ですが、実際にAIやビッグデータの拡大により、このように関係するサービスプロバイダーもますます増えています。ここでいうサービスプロバイダーとは、外部だけでなく内部のサービス提供部門も含まれます。

これら各サービスプロバイダーとの結合が複雑になった結果、サービスプロバイダーが個別でのサービス提供目標を達成していても、ビジネス部門の期待する効果は生まれていない、という事象に陥りやすくなります。SIAMではこれをウォーターメロン現象と呼びます。(外見は青だが、中身は赤)

こういった問題を解決するために、SIAMではサービスインテグレータという役割を設定します。図で表すと下記の体制になります。

<SIAMの適用>

サービスインテグレータはそれまで曖昧であったエンドツーエンドのサービスを保証する責任があり、各サービスプロバイダーはこれらSIAMモデルに適合していくよう、新しい働き方を取り入れていく必要があります。

例えば従来どおり、サービスプロバイダーは各サービスのデリバリにおいて責任をもちますが、サービスインテグレータが自立的に指示、決定、ガバナンスを行うことを受け入れる必要があり、顧客組織は各サービスプロバイダーとの契約時に、サービスインテグレータが顧客の代理人であることを明確にする必要があります。

顧客組織が行うサービスインテグレータの任命は、顧客組織内部のメンバーを集めた「内部調達」だけでなく、サービスインテグレータの専門的な知識を有する「外部調達」の手法をとることもあります。更には、その両方をあわせた「ハイブリッド」方式や、一部のサービスプロバイダーがサービスインテグレータを担う「リードサプライヤ」という構造もあり得ます。それぞれにメリット、デメリットがあるので、SIAMの導入の際には、十分に検討しておく必要があります。

まとめ

SIAMモデルの採用に多くの検討事項があるので、日本において受け入れられる考え方であるのかはまだ不透明ではありますが、AI・ビッグデータ時代に突入するこれからの時代において、有効なサービスマネジメント手法であると私は考えています。

SIAMでは既存のITILやISO20000のようなサービスマネジメントはもちろん、リーンやアジャイル、DevOpsといったシステム開発手法、ガバナンスフレームワークであるCOBITにもアプローチしていて、どのように共存し、ITサービスの価値を拡大していくべきか、検討されています。

組織変革やプロセス変更、ツール戦略をもって、AI・ビッグデータの効果を最大化するミッションを持つ人へ、SIAMをチェックしてみることをオススメします。

※ITIL®はAXELOS Limitedの登録商標です。
※SIAM®はEXIN社の登録商標です。

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執筆者プロフィール

Toyoshima Daichi
Toyoshima Daichitdi AI・コグニティブ推進部
データセンター業務を経験した後、Watsonを使用したChatBotの保守を担当。
サービスデリバリ、サービスサポートのプロセス改善を実施してきました。
日々、スキルアップに向け勉強中。
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