SAP BasisコンサルタントによるS/4HANA新規構築ガイダンス(前編)

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はじめに

SAPのBasisと聞いて、多くの皆さんは、SAPシステムの環境構築や移送による環境管理、システム監視やバックアップといった作業を思い浮かべるかと思います。ですが、その中でも、SAPシステムの環境構築がどのように行われているのか、その具体的なプロセスについてはあまり知られていないのが現状です。
そこで今回は、SAPの新規環境構築(SAP S/4HANA 2023 SP1)についてのプロセスとアプローチを前編と後編に分けてご紹介します。

・前編:SAP HANA DBのインストール(本記事)
・後編:SAP S/4HANAのインストール

この記事を通じて、SAPのBasisの役割や業務が少しでも伝われば幸いです。新たな知識を得るきっかけとして、ぜひ最後までお読みください。

環境構成

Amazon Web Services(以降「AWS」と表記)上に、最小構成でサーバ構築を実施しました。
以下は検討したサーバ構成となります。※2024年10月時点

OS

SUSE Linux Enterprise Server 15 SP6(64bit)

SAP HANA DBサーバ

インスタンス

・EC2インスタンス(r5.8xlarge)

ストレージ

・EBSボリューム(32GB): OS+SWAP領域
・EBSボリューム(64GB): [/usr/sap]マウント用
・EBSボリューム(128GB): [/hana/log]マウント用
・EBSボリューム(256GB): [/hana/data]マウント用
・EBSボリューム(128GB): [/hana/shared]マウント用

SAP S/4HANAサーバ

インスタンス

・EC2インスタンス(m5.2xlarge)

ストレージ

・EBSボリューム(80GB): OS+SWAP領域
・EBSボリューム(35GB): [/usr/sap]マウント用
・EBSボリューム(20GB): [/sapmnt]マウント用
・EBSボリューム(40GB): [/usr/sap/trans]マウント用

作業用端末

・空き容量(100GB以上): 資材の格納用

インストーラのダウンロード

続いて、SAP HANA DBとSAP S/4HANA 2023のインストーラを入手します。
インストーラは以下SAPのダウンロードセンターから取得可能です。
https://me.sap.com/softwarecenter
※ダウンロードセンターへのサインインはSユーザIDが必要です。予めご用意ください。

以下に、各インストーラの名称とその役割をまとめましたので、参考にしてください。

ファイル名 役割
IMDB_SERVER20_079_0-80002031.SAR SAP HANA DBサーバーのインストールファイル
SAPCAR_1300-70007716.EXE SARファイルを解凍するためのユーティリティ
igsexe_4-70005417.sar IGS(Internet Graphics Service)の実行ファイル
igshelper_17-10010245.sar IGSのヘルパーファイル
IMDB_CLIENT20_021_28-80002082.SAR SAP HANA DBクライアントのインストールファイル
S4HANAOP108_ERP_LANG_JA.SAR 日本語言語パック
SAPCRYPTOLIBP_8556-20011697.SAR 暗号化ライブラリ
SAPEXEDB_101-70007806.SAR SAPエグゼクティブDBファイル
SAPEXE_101-70007807.SAR SAPエグゼクティブファイル
SAPHOSTAGENT64_64-80004822.SAR SAPホストエージェント
SWPM20SP18_2-80003424.SAR ソフトウェアプロビジョニングマネージャ
saphostagentrpm_64-80004822.rpm SAPホストエージェントのRPMパッケージ
51050829_3.ZIP Netweaverインストール用ZIPファイル
51055169_4.ZIP Kernelインストール用ZIPファイル
51057281.ZIP SAP HANA Platform Editionのインストール用ZIPファイル
S4CORE108_INST_EXPORT_1.zip(※1~30) S/4HANAコアのインストールエクスポートファイル

※2024年10月時点の最新ファイル

インストーラダウンロード後の振り返り

インストーラのダウンロードにあたって、以下のポイントを押さえておくとスムーズに進められます。

・インストーラの特定には事前の準備が重要。
 必要なファイルの一覧を作成し、効率的に最新のインストーラをダウンロードする。
・ダウンロードするファイルが多いため、一覧を活用して必要なファイルの抜け漏れが無いように注意する。
・SAPのダウンロードマネージャを活用し、ダウンロード作業をより効率的に行えるようにする。

SAP HANA DBのインストール

「.SAR」形式のインストーラは、特定のツールを使用して解凍する必要があります。
次の手順を実施し、インストーラを実行可能な状態にします。

拡張子「.SAR」とは?

「.SAR」形式のインストーラは、SAPが提供する圧縮ファイルです。
解凍にはSAPが提供しているSAPCARというプログラムを使用します。
以下のコマンドでSAP HANA DBインストーラを解凍します。

#<格納先>/SAPCAR_1300-70007716.EXE -xvf <格納先>/IMDB_SERVER20_079_0-80002031.SAR

解凍後、hdblcmというファイルが展開されます。
HDBLCMは、SAP HANAのインストールなどを行うためのツールです。

HDBLCMの実行

以下のコマンドを実行すると、インストールウィザードが起動し、インストールに必要な情報(インストール先のディレクトリ、管理者パスワード、ネットワーク設定など)を順次入力するよう求められます。

#./hdblcm --ignore=check_signature_file

インストールウィザードにて必要な情報を入力することでSAP HANA DBの設定は完了となります。

SAP HANA DBのインストール完了後は、以下を実施し、正常にインストールが完了したことを確認します。
・管理者パスワードでのログイン
・SAP HANA DBサーバの起動停止
・SAP HANA Studioへの接続

前編の締めくくり

本記事では、SAP S/4HANAの新規構築におけるインストーラのダウンロードからSAP HANA DBのインストールまでのプロセスを解説しました。SAP特有のファイル形式やツールの使用に関しては、情報が限られているため、実際に作業を進める中で理解が深まることが多いかと思います。
次回の後編では、SAP S/4HANAのインストールについて解説します。引き続き、SAPのBasis業務に関する知識を深める機会として、ぜひご期待ください。

お問い合わせ先

執筆者プロフィール

Maruyama Yutaitdi ITコンサルティング部
インフラエンジニアとして主に金融系のサーバ構築や運用、またヘルプデスクやサポート業務を経験してきました。
現在はSAP BASIS領域のチームリーダーとして、チームの成長に努めています。
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